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イタリア近現代史研究会

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2007年 03月 03日

3月例会報告

2007年3月3日(土)午後4時~6時30分
会 場:明治大学駿河台校舎 アカデミーコモン9階 309F教室

報告者:太田岳人
題 目: 「同意の時代」の視覚表象――「航空絵画」とその背景

【報告要旨】
 1909年、フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ(1876-1944)が発表した「未来派創立宣言」によって開始された未来派運動は、狭義の美術の枠を越えあらゆる文化領域への浸透を試みた20世紀最初のアヴァンギャルド運動であると同時に、第一次世界大戦後にベニート・ムッソリーニ(1883-1945)率いるファシズム勢力に接近した事実によっても知られている。このため、運動自体はマリネッティが死去するまで継続しているにも関わらず、第二次世界大戦直後から1970年代までは、1910年代の未来派のめざましい成果や国際的影響力の強さが評価される一方、1920年代以降により若い世代の芸術家をも吸収しつつ展開された「第二未来派(second futurismo)」の潮流については、その重要性を早くから主張したクリスポルティのような少数の批評家によるものを除き、紹介と研究は停滞していた。
 しかし最近の四半世紀で、この傾向は大きく変化している。近年の未来派の回顧展では、1920年代から30年代の造形活動は欠かす事の出来ない未来派の一部分として認知されている。また、文化史的なアプローチによるファシズムの研究においては、イタリアのファシズム期の文化に顕著なモダニズムの要素について注目が集まり、美術史以外の分野から「第二未来派」を解釈する試みも見られる。
 本発表の中心となるのは、1930年代に「第二未来派」が提唱した「航空絵画(aeropittura)」についてである。1931年、初期未来派からのメンバーと「第二未来派」の中核を担った若手芸術家たちとの9人による連署で発表された「未来派航空絵画宣言」は、近代文明の産物である飛行機による航空体験がもたらす、心身の感覚の変容に着目し表現する事の重要性を謳ったものであった。この宣言以降、「第二未来派」は「航空」という言葉を前面に押し出すようになり、この言葉を冠した各ジャンルの活動(絵画以外にも「航空彫刻」「航空詩」「航空舞踏」などが提唱される)が次々と開始され、運動の終焉に至るまで積極的に展開される事になる。
 また、この「航空絵画宣言」は「飛行と航空絵画のパースペクティヴ」というマリネッティが単独で発表した文書が基礎となっているが、後者が発表された1929年はファシズム政権と教皇庁の間にラテラーノ協約が結ばれており、政治史家デ=フェリーチェによれば「同意の時代」、すなわちエチオピア戦争(1935-36年)がもたらす国内外の緊張期に至るまでの間、ファシズムが最も大衆の積極的な支持を引き出す事に成功した一時期の始まった年でもあった。さらにこの年に、ファシズム政権が設立したイタリア学士院にマリネッティが入会した事は、「第二未来派」がファシズムの「同意」の傘の下での前衛芸術運動という道をより積極的に選択した事を示すものと言えよう。
 今回の発表は、この「同意の時代」に確立した「航空絵画」の表現を、1)「航空絵画宣言」にいたる未来派の流れ、2)同時代の大衆文化における飛行愛好ブームとモダニズム芸術家とのつながり、3)ファシズム政権における「新しい人間」像と飛行のイメージ、といった背景を踏まえて、実際の作品および関連する資料の図像を広く取り上げつつ、検討する事を目的としている。

by storia-italiana | 2007-03-03 23:59 | 2006年度


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